10行即興掌編 あるカップルの場合A−3

別れてほしい、でもずっと一緒にいたいんだと言う彼に
真菜は長い沈黙でしか答えることができなかった。
「ごめん、あたし今日はもう帰るよ。」
やっとの思いで口にした言葉に、彼はわかったよとだけ答えた。
それがとても冷たく感じて、今まで喧嘩ひとつしないで1年間
付き合ってきたことが、真菜にはひどく意味のない時間だった
ように思えてきた。実際彼のことを何も知らなかった。
彼という人間が急にすごく遠くなり、怖くなった。
 足早に出ていった真菜がテーブルに残した千円札と、
口のつけられていないカフェラテを、彼はぼんやり眺めていた。

<続く>